ハラスメントとメンタルヘルス

ハラスメントとメンタルヘルス

ハラスメントとは

他者に対する発言・行動等が本人の意図には関係なく、相手方に不利益や損害を与えたり、不快にさせたりすることを指します。時には相手に脅威を与え、個人の尊厳または人格の侵害に至る場合もあります。様々なハラスメントがありますが、ここでは職場における「セクシュアルハラスメント」と「パワーハラスメント」について触れていきます。 また、「ハラスメント対策」と「メンタルヘルス対策」は関連している部分も多く、その観点にも注目していきます。

ハラスメント対策とメンタルヘルス対策の関連

職場におけるハラスメント対策とメンタルヘルス対策は、企業にとって緊急かつ重要な取組みです。
事案が発生した時のダメージは当事者である労働者だけでなく、それに関わった人々にもマイナスの影響を及ぼします。当然企業にとっても、使用者責任を問われる、企業イメージが低下する、労働力の低下を招くなどのリスクをはらんでいます。

逆に言えば、これらの対策をポジティブに展開できれば、企業イメージの向上、社員のモチベーションアップや離職率の低下、生産性の向上につながることが見込まれます。 労働者は自分たちを大切にしてくれる会社で本来の能力を発揮することができ、企業は業績を上げるだけでなく社会的に良い評価をも得ることができるのです。

また、ハラスメントの被害にあった労働者が、それを起因として精神的・身体的な不調者となることも大いに考えられます。 現在、事業所に「セクハラ相談窓口」を設置することは義務とされていますが、その担当者がメンタルヘルスにも対応できたら、相談者はより窓口を利用するでしょうし、相談後の経過もより良好なものとなるでしょう。
相談窓口の設置以外にも具体的な対策や防止(予防)措置を行っていく必要があり、そこでも両者の共通点はたくさんあります。

 

セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは

「性的嫌がらせ」という意味で、相手の意に反する不快な性的言動を指します。相手が不快に感じたのであれば、行為者にその意図がなくてもセクハラに該当します。そういう意味ではされた側の主観が大きく左右しますが、判断基準としては一定の客観性が必要です。セクシュアルハラスメント防止措置を規定している法として「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(通称:男女雇用機会均等法)」がありますが、そこでは、被害者が女性であれば「平均的な女性労働者の感じ方」、男性であれば「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当であるとされています。

男女雇用機会均等法では、職場におけるセクシュアルハラスメントの対象を男女労働者にするとともに、正規労働者だけでなく非正規労働者もその対象としています。そして、セクハラ防止のため、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備をはじめ、その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを事業主に義務づけています。

セクハラの2つのタイプ

○対価型セクハラ… 労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けること。
○環境型セクハラ… 労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、その労働者の就業意欲が低下したり、苦痛に感じて業務に専念できなかったりする等の支障が起きること。

セクハラ排除の対象となる「職場」についても注意しましょう。「職場」とは、仕事をしているオフィスや事業所、工場、店舗内だけではありません。それ以外でも、そこが業務遂行に関連する場所と認められれば、すべて対象の「職場」となります。例えば、取引先の事務所、出先への移動中の車内、顧客の自宅、出張先、打ち合わせのために入った飲食店、歓送迎会や忘年会等の宴会の場などが「職場」とみなされます。また、セクハラの行為者となりうるのは、事業主・上司だけでなく、同僚・顧客・取引先や病院における患者・福祉施設における利用者・学校における生徒なども含まれます。

パワーハラスメント(パワハラ)とは

「権力や地位などのパワーを背景にして、本来の業務の範ちゅうを超え、継続的に人格と尊厳を侵害する行為」のことを言います。パワハラにより、労働者の働く環境が悪化したり、雇用に不安を与えたりするだけでなく、仕事の生産性が低下したり、場合によっては労働者の健康を害することもあります。

セクハラについては、男女雇用機会均等法のなかで明確な方針が定められていますし、紛争が起きた場合の援助や違反した企業への制裁までも記されていますが、パワハラについてはまだ法律上の明確な定義がなく、会社の責任を直接定めた法律もありません。しかし、近年ではパワハラによる訴訟事件が増えており、中には会社の責任を認めた判決もあります。安全配慮義務および職場環境配慮義務の一環としてパワハラ対策を講じることは、今や不可欠であると言ってよいでしょう。  

パワハラの4つのタイプ

○攻撃型パワハラ… 相手を直接攻撃するもの。例えば、暴力的な言葉や威圧的な態度で叱りつける、肉体的暴力をふるう、机や壁などを叩いて脅す、など。
○強要型パワハラ… 権限や権威を示したがるもの。例えば、サービス残業を強要する、責任をなすりつける、お客様に嘘を言うよう命令する、明らかに実現できない仕事を押しつける、など。
○否定型パワハラ… 相手の存在そのものを軽視するもの。例えば、相手の人格や尊厳を否定する言葉を発する、不当に低い評価をする、病人扱いする、など。
○妨害型パワハラ… 仕事そのものや意欲・向上心まで妨害するもの。例えば、合理的な理由もないのに仕事を与えない、必要な情報を与えない、職場の会合や行事などに参加させない、業務とは関係のない雑用をさせる、など。

「業務上必要な指導・命令」と「パワハラ」は別のものです。上司は職務権限の範囲内で、一定の制約の下に指導や命令を行います。上司は仕事熱心のあまり部下に厳しい態度で接することがあるかもしれませんが、それが職務権限の範囲を逸脱して、相手に肉体的・精神的苦痛を与えていないかどうかを常にチェックする目が必要です。 もちろん、部下も「業務上必要な指導・命令」と「パワハラ」をはき違えないよう注意する必要があります。

あってはならないこと

そもそもハラスメントとは「あってはならないこと」です。
対策を講ずるにあたっては、ハラスメントが起こった時にどう対応するかを定めておくことももちろん重要ですが、それ以上に大きな問題となる前に早めに対処できるような仕組みを作っておくこと、もっと言えば、ハラスメントが起こらないよう普段からの啓発や風土づくりがより重要です。

ハラスメントの始まりは、もしかしたらとても小さなことかもしれません。小さなことであれば、人は「これくらいのこと我慢しよう」とか「あまり言うと人間関係が悪くなるのでは」などと考えて、何も言わずに済ませてしまうことが多いものです。しかし、その小さなことが積み重なっていくと、それらは自分でも制御できない大きな問題へと変わっていきます。

この構造は、メンタルヘルス不調が発生する時とよく似ています。「これくらいのこと自分でなんとかしなくてどうする」と思ってがんばっているうちに、自分ではどうしようもなくなっていくのです。その時になってようやく腰を上げても、解決に時間がかかることは想像に難くありません。

とはいえ、早めに相談したくても、職場が相談しにくい雰囲気だったり、ハラスメントやメンタルヘルスに理解がない職場だったらどうでしょうか。 つまり、ハラスメントもメンタルヘルスも、そもそも起こらないようにすること(せめて、問題が小さなうちに早めに気づき対処すること)が大切で、そのためには、風通しのよい職場であることが肝要なのです。「風通しのよい職場」の定義はいろいろあるかと思いますが、ここでは、
1.管理監督者はもちろん労働者全員が、ハラスメントやメンタルヘルスに関する十分な知識を有すること
2.普段から上司または先輩が、部下や後輩との良好なコミュニケーションを心がけること
と言えるでしょう。

対策の必要性

なぜ対策が必要なのかと問われたら、「ハラスメントやメンタルヘルスの問題が起こることは、誰にとってもデメリットにしかならないから」というのが答のひとつだと思います。 ハラスメントを受けた労働者やメンタルヘルス不調に陥った労働者本人にとっては、心身の不調、働く意欲の低下、ひょっとすると働く場所を失うという事態になることすら有り得ます。ハラスメントの加害者とされた人や不調者の上司はどうでしょう。その人たちには何の影響もないと言えるでしょうか。 職場全体にとっても、士気やモラルの低下、会社への不信感が募るといったことが考えられます。そして、会社・組織全体にとっても、労働生産性の低下や人材の流出、企業イメージの悪化などが起こり得ます。訴訟が起きた時のリスクもあるでしょう。

しかし逆を言えば、対策をしっかりと講ずることで、これらのデメリットは少なくなり、代わりにメリットが増えていくのです。労働者は本来の能力を有効に発揮し、会社そして社会に貢献することができます。職場全体の士気も揚がり、会社としても労働生産性の向上やイメージアップが望めます。

厚生労働大臣の指針により、セクハラ防止対策で企業が講ずべき9項目の措置が定められています。繰り返しになりますが、対策を講ずることはセクハラにおいては雇用管理上の義務ですから、必ず行わなければなりません。 メンタルヘルスについても、第12次労働災害防止計画(労働安全衛生法に基づき、厚生労働大臣が定めるもの)のなかで「平成29年までにメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上にする」ことが目標に掲げられていますし、おそらくパワハラについても、昨今の状況から鑑みるになんらかの行政の関与が近い将来あるであろうと予測されます。 であれば、セクハラ防止対策として発表されている指針を元に具体的な対策を立てておくことは、今後のリスクマネジメント、ひいては将来の会社・組織の発展にも役立つと言えるでしょう。また、すでに対策を講じている場合も、トータルに対応できるよう見直してみてはいかがでしょうか。

対策のポイント及び具体的な対策

まず、セクハラ防止対策で企業が講ずべき9項目の指針のポイントを転載します。(厚生労働省パンフレット『事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!』より抜粋)

1 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
(1)  職場におけるセクシュアルハラスメントの内容・セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。 (2)  セクシュアルハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。  2 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備  (3)  相談窓口をあらかじめ定めること。 (4)  相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。  3 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応  (5)  事実関係を迅速かつ正確に確認すること。 (6)  事実確認ができた場合は、行為者及び被害者に対する措置を適正に行うこと。 (7)  再発防止に向けた措置を講ずること。  4 1から3までの措置と併せて講ずべき措置  (8)  相談者・行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。 (9)  相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

これらをハラスメント全般およびメンタルヘルスにも適用できるようにカスタマイズしていくことで、行うべき具体的な対策が見えてきます。

例えば1から見えてくる対策は…

◇  対策を中心的に担当する者を決める
◇  企業・組織全体で取り組むことを明らかにする
◇  発生した場合の対処の方針(メンタルヘルス不調の場合、休職・復職規定)を就業規則等で明確にする
◇  それらを従業員全員に周知する

  2からは…

◇  事案対処フロー(相談・苦情発生時の対応の流れ)を作成する
◇  社内に相談窓口を設け、広く周知する
◇  担当者の研修を行う
◇  相談(対応)マニュアルを作成する

  3からは…

◇  事実関係を迅速かつ正確に確認するためのツール(聴き取り票など)を作成する
◇  「対策委員会」などを設け、措置を決める
◇  判定・判断は規定に沿って行う(ただし、緊急性を要する場合、深刻性が高い場合など、個別の状況を鑑み、応急的な措置を行う場合もあることも明記しておく)
◇  事案発生後には、再発防止対策を見直す
◇  意識を啓発するための研修会・講習会等をあらためて実施する

  4からは…
◇  個人情報を守るためにすべきことの必要事項(相談窓口を人事ラインから独立させる、聴き取り票などの関係書類の閲覧を制限する等)をまとめ、実施する
◇  従業員が相談をしたことを理由として不利益な取扱いを行ってはならない(事実関係の確認に協力した場合も同様)ことを全従業員に周知する

  上記の対策はぜひ網羅していただきたいのですが、事業所の規模によっては対応が難しい部分もあるだろうと思います。例えば、相談窓口を人事ラインから独立させることが難しいという事業所もきっとあるでしょう。
その場合も、はなから無理だとして取り組まないのではなく、その事業所の実態に即した方法を工夫してみてください。

 

最後に

ハラスメントの定義、メンタルヘルスとの関連、事業主が講ずべき対策について、ここまで述べてきました。
ハラスメントやメンタルヘルス不調を完全になくす画期的な方法は、残念ながら存在しません。しかし、組織において「あってはならないこと」という姿勢は、あらゆる機会に示していただきたいのです。その効果は必ず現れます。 また、そのような組織の姿勢から、個々人の意識も育ちます。一人ひとりが相手を尊重し、思いやって働くとはどういうことで、どんな効果が生まれるのか――そんなことも機会を設けて従業員同士で考え、思いを共有していただきたいと思います。 一人ひとりがいきいきと働ける、そんな職場づくりをみんなで目指していきましょう。

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